国際協力機構(以下、JICA)の青年海外協力隊員として勤務している冨岡愛子さん。(実践栄養学科/2021年卒業)女子栄養大学を卒業し、日本国内で 数年間の病院勤務を経て、現在バヌアツ共和国(南太平洋のシェパード諸島の火山島上などに位置する共和制国家、オセアニアの島国)で管理栄養士として活躍しています。女子栄養大学を飛び出し、世界でプロフェッショナルとして活躍する卒業生をレポートします。
Q:現在のお仕事(業務内容)について教えてください。
私の勤務する北部州病院はバヌアツ北部の3州を管轄するリファラル病院(紹介病院)で、病床数は180床、入院患者は毎日40~60人程です。国立の病院のため診察料も入院費も非常に安く、外来費用は、大人300vt(約360円) 学生200vt(約240円) 子ども50vt(約60円)です。入院費用は、大人690vt(約828円) 子ども、60歳以上は無料となっています。私の業務としては、午前中はクリニックにて外来患者の栄養指導、内科・外科の病棟回診、病院食の盛りつけの手伝いなどをし、午後は入院患者への栄養指導、厨房の在庫管理、栄養指導に使う教材づくり、患者の統計を出すためのデータ入力などをしています。
また通常業務とは別に「Farm to Hospital」というプロジェクトに参加しています。これは病院に併設されている農場・養鶏場・魚の養殖場を用いてより新鮮な食材でよりよい病院食を作り、将来的には予算も削減していくというプロジェクトです。今までの病院食は栄養価が計算されたものではなかったため、プロジェクトで農場・養鶏場・魚の養殖場を作ったものの目指すべきゴールが決まっておらず、うまく活用できていませんでしたが、今は栄養価計算をした献立を最終的なゴールとして動き始めています。
Q:バヌアツという国について、少し紹介してください。
バヌアツは南太平洋に浮かぶ島国です。83の島からなる国ですが、国土の総面積は新潟県と同じくらいしかありません。また人口は新潟県の40%(32万人)ほどです。今年の5月に発表された地球幸福指数では1位を獲得しました。
Q:なぜ現在の仕事をしようと思ったのですか?
青年海外協力隊/JOCVとはJapan Overseas Cooperation Volunteersの略で、JICAが実施するボランティア派遣制度です。私の両親は共にJOCV参加者でした。父はボランティア活動後も農村開発の専門家としてJICAのプロジェクトに参加し、活動を続けていました。自分の持つ技術で途上国の発展に寄与する両親を見て、「自分もいつか途上国の人を助ける仕事がしたい」と思うようになりました。実は私の兄も現在JOCVに参加しグアテマラに派遣されています。
Q:女子栄養大学にいた時はどんな学生でしたか?学生時代の夢や、栄大入学の動機などに触れて記載ください
「途上国の人の助けになる」という夢のためにどんな技術が必要だろうか?と考えた時興味をひかれたのが「食」でした。国が違っても言葉が違っても、必ず必要となる「食」。おいしいご飯を食べれば誰でも幸せを感じると思います。そのため最初は料理人を目指していました。
しかしながら、高校の頃に父が末期腎不全と診断されました。誰にとっても必要な「食」を大きく制限され、食事に苦しむようになりました。その時1日に3回もあり、必ず必要な「食」が誰にとっても幸せなものであるためには栄養の知識が必要であることに気づき、その権威である女子栄養大学に入学しました。
栄大生の時代、実は私は優秀な学生ではありませんでした。1年の解剖生理学を落としてあわや留年の危機みたいなことにもなりました。目指すものが決まっていたこともあり、興味のある科目とそうでない科目のやる気の差がすさまじく、当時担任をしていただいていた斉藤守弘先生には大変ご迷惑おかけしました。社会に出た今思えばすべての科目が繋がっていて、必要であったことが分かります。機会があればもう一度学生をやりたいです。
Q:海外で働くことと、日本で働くことの違いを教えてください。仕事のやりがい、などにも触れてください。
私は海外といってもこの国のことしか知らないのでこの国の話になりますが、日本での栄養士の仕事は決まった業務内容をどれだけ丁寧に・効率的にやれるかということを重視しているように思います。すでに形があってそれを各々の技量によって磨いていくイメージです。それに対し、この国の栄養士の業務内容には決まった形がありません。食品成分表もなければ献立マンのような栄養・給食ソフトもありません。バヌアツの人は、体格も思考も食生活も違うため、日本の形に無理やり当てはめることもできません。しかしながら、ここには「こうしたい」と思った形を自分で模索する自由があります。手さぐりにでも0から1を生み出せた時は達成感がありますし、とても楽しいです。
Q:栄大の後輩へのメッセージ
私の英語力は中学生レベル程度だと思います。しかし、今のところは、業務でもどうにかなっています。もし言語の壁で将来を迷うことがあるなら、一旦飛び込んでみて下さい。案ずるより産むが易しといいますので。